ルーミー詩集
 
ジャラール・ウッディーン・ルーミー

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それぞれの音

愛し合う者たちに、助言など必要ない!
彼らはダムなど
架けるべくもない激流なのだから。

おかたい知識人には
酔っぱらいの気持ちなど想像もつくまい!

愛に溺れる者たちが
次に何をしでかすかなんて
誰にも分かりはしない!

愛し合う者たちが
二人きりで
秘め事をしている部屋から
漏れ来る
葡萄酒と麝香とが入り混じった匂いには
どんな有力者も
その権力を捨て去るだろう!

ひとりは、山を貫くトンネルを掘ろうとする。
ひとりは、一切の学問的名誉から逃げ出す。
ひとりは、あの高名な口髭を笑い者にする!

人生はこのアーモンドケーキを
味わうことなしには
一歩も先へ進まない。

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本当はそうではないのに

あなたが束縛するから、私は、もがき、怒り狂い、出て行く。
外へ、まったき光の中へ、燃えさかる蝋燭の火先へ、
すべての理由の中へ、愛の中へ。

この混乱したよろこび、あなたのおこない、
このふつか酔い、あなたのやさしい棘。

あなたがこちらを向く。私はあちらを向いてしまう。
本当は、そうではないのに。

私は「心」という女を縛り上げた咎により、監獄にぶち込まれる狂人だ。
私はソロモン王だ。

去る者は、戻り来る。戻って来い。
私たちは、離れたことなど一度もない。

信じない者は、不信を隠そうとするが、
私は、それを口に出す。

夜の深まりとともにいっそう目が冴える中、
シャムスへの愛に舞い踊り、倒れ込みながら。

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愛する人々よ、
 汝自身を過去より解き放て。
 狂うのだ!
 蝶になれ、
 汝の燃える心の中で!
 家を去り
 在りし日の己を捨てよ。
 そこで同じ波長に乗る者らと会え。
 内なる己を清めて
 清らかとなるのだ。
 そこで「かの」お方の御手より来る
 愛の葡萄酒を飲むがよい。
 酔うのだ
 「愛する者」と溶け合って。
 一つになれ、
 汝自身と。

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人々は永遠の敷居を乗り越えて、
向こう側とこちら側をいつも行ったり、来たりしている。
ドアは開かれている。
君が目覚めていさえすれば!

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あらゆる悪行や善行を越えた彼方に、
緑の野原がある。そこであなたに会おう。
魂がその草のなかで横になると、
世界はあまりにも豊かで、言葉にできなくなる。

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この世のありとあらゆるものは
恋をし、恋人を探し求めている。
麦わらは実を震わせる
琥珀をまえにして。

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もし、君が、注意深く、意識を明晰にしていれば、
瞬時瞬時、自分の行動に対する答えを知るだろう。
素直な心を持つ者は、注意深くあれ。
なぜなら、君の行動の一つひとつの結果として、
何かが君に生まれるのだから。

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「どうして君は自分の強さを誇示しようとするのか?」
見よ。大木をなぎ倒す、その同じ風が
草原の草をやさしく愛撫してゆくのを。

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「昨夜、男が叫んでいた。アッラー!アッラー!
彼の唇は、賛美の言葉で甘くなった。
すると一人の皮肉屋が言った。
ふん。いつもお前は呼びかけてばかりいるが、
今まで何か答えが返ってきたことはあるのか?
男は、その問いに答えることができなかった。
祈ることをやめ、混乱した眠りに落ちていく。
男は夢を見た。
魂の導き手、ハディルに緑濃い茂みのなかで出会った夢を。
なぜお前は祈ることをやめたのか?
それは、今まで何も答えがなかったから。
お前の渇望こそ、返事なのだ。
その嘆きが、お前を大いなるものに引き寄せる。
助けを求める混じりけのない悲しみは、神聖な杯。
飼い主を呼ぶ犬の悲しげな声を聞くがいい。
あのすすり泣くような声こそが、絆なのだ。
愛を請う犬たちがいる。
だれも名前さえ知らない犬たちが。
命をささげ、その一匹となりなさい。」


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秘められたる場所

黄金の財宝を大事にしまうには
さびしくて人気のない場所に隠す。
人目に付く場所にしまわないのは、
当たり前のことだろう?
だから、それと同じことなのだよ。
喜びが、悲しみの後ろに隠れているのは。

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霊的な医者

汚水の流れでもって、
汚物をきれいにできるだろうか?
人間の知識でもって、
肉欲の自己という無智に打克てるだろうか?
刀がどうやって、刀の柄を作るというのだ?
行け、この傷の治療は、外科医の手に委ねるがよい。
傷が目立たなくなるまで、
ハエがたかってくるだろうから。
これらの傷は、自我我欲の思いのゆえ。
何かを所有したいというもろもろの幻想のゆえ。
心の傷とは、自らの暗闇へと通じる綻び。

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かたちと本質

言葉は、鳥の巣のようなもの。
そして、言葉の意味が鳥だ。
肉体は川床であり、
スピリットは、その上を流れる水である。

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われは燃ゆる炎なり

われは燃ゆる炎なり
もし誰か、火をつけるほくちがないのなら、
わが炎でもって、彼の者の贅言を照らさしめよ。

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有限の時間の中で、豊かな水がこんこんと溢れ出る。
飲むがいい、そなたの肉体が塵に還る前に。
生命の水で満たされた、名高き水路。
豊かになりたいのなら、この水を汲むがいい。
聖者の語る言葉という河から
私たちは天上の甘露を飲んでいる。
来るがいい、渇きたる者よ!
たとえ水が目に見えなかったとしても、
盲(めし)いたる者よ、その熟練(なれ)た手で、
壷を持ち来たりて、河にひたすがよい。

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断食

断食とは思考を断ち切ることだ。
人の心というやぶの中を
思考はライオンか野生のロバのようにうろつく。
それを断ち切ることが健康の第一歩だ。
自制心はどんな薬よりもまさる。
痒いところを掻けばひどくなるだけ。
断ち切り、スピリットの健康さを見つめなさい。

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すべての知性の本質

商品ひとつひとつの価値を知っていたとしても、
自分の魂の価値を知らなければ、
的外れなことになるだろう。
幸運と不幸の星の指し示すものを
これまで知るに至ったとしても、
自分自身がどこにいるかを知らなければ、
それは幸運なのか不運なのか?
裁きの日が至ったときに、
自分という存在がどのように判断されるかを知ること。
まさにこれこそが、すべての知性の本質なのだ。

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『想い人は「わたし」』

ある男が、愛しい想い人の住まう館の扉を叩く。
「どなた?」想い人が尋ねる。
「私です」男は答える。
「お帰りになって」想い人はつれなく言い放つ、
「お若い御方。わたくしの食卓には、生もののためのお皿はないわ」

生の肉であれば、火に炙って調理するのがよい。
未熟な者であれば、愛しい想い人の不在が燃やす恋の炎に炙るのがよい。
それ以外に、彼を独りよがりの偽善から救い出す手だてはない。
男は、やって来た路を悲しげに去って行く。

それから一年、悲しい別離の炎に炙られ続けた男は、
流浪の果てに、再び愛しい想い人の住まう館のあたりまで戻って来る。
彼は恐れる、不躾な言葉の一片でもその唇からこぼれ落ちはしまいかと。
恐れつつも溢れんばかりの敬慕を胸に、愛しい想い人の住まう館の扉を叩く。
「どなた?」想い人が尋ねる。
「あなたです」男は答える、「心の全てを占めるあなたです」
「それならば」想い人は言う、

「お入りになって、あなたがわたくしならば。
この家に、『わたし』は二人も入れない。
糸の筋目には両端あれど、針の穴はひとつだけ。
一筋に縒られた糸であれば、針の穴にも通りましょう」

苦心の末に針の穴に通された糸、これこそがまさにそれ。
針の穴からは駱駝の姿は見通せぬ。
こうして男は、恋の想いを成就させる。

禁欲のはさみで切り刻めば、駱駝であっても針の穴を通ろう。
しかしそれには、神の御手が必要となろう、
全ての不可能を可能とし、存在せぬものを在らしめる神の御手が。
「主は日々あらたなるみわざをなしたもう」と、書物にもある通り。

神が何も為さぬと思うな、無に為さると思うな。
神は日々、少なくとも三つのみわざ、三つの軍勢を送り届ける。
軍勢のひとつは父の脇腹から母の脇腹へ、みどりごを子宮に宿さんがため。
軍勢のひとつは子宮から大地へ、男と女とで世界を満たさんがため。
軍勢のひとつは大地から死を越えたその先へ、
愛し合い慈しみ合うことの美しさに、誰しもが目覚めんがため。

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『見せかけの知識』

ねえきみ、きみはいったいそれを知っているのだろうか、
きみはそれを理解しているのだろうか。
それともきみは、薄々は感じているのだろうか?
きみの学んできたことなど、まるで子供だましの、
葦の茎のように、脆くはかないおもちゃであることを。

心で憶えたことなら、それはきみの翼となって、
きみは今すぐにでも空よりも高く飛び去るのだろう。
けれど体に染み付いてしまったことなら、
それはきみにとって、背負わされた重荷でしかないだろう。
かみさまだってこんなふうに言っている、
?『書物を運ぶろばよ、あわれなものよ』1と。

けれどかみさまのこぼす、あわれみなどには背を向けて、
重荷を運び続けるのも、それはそれでわるくはない。
無心に、ただひたすらに歩いて行けば、
きみはいつか、辿り着かずにはいられないだろう。
そのとき重荷は取り去られるだろう、
そこで初めて、きみは歓びの何たるかを知るのだろう。2

それを知ることなしに、どうして自由になることなどできるだろう?
きみというきみの全てが それのしるしそのものだというのに。
きみが見ているそれ、感じているそれを、人はまやかしと呼ぶだろう。
けれどまた同時に、まやかしほどに真実へと至る道を知らせるものはない。
いったい、リアリティを含まないファンタジィなどあるだろうか?3
それとも、きみは「薔薇」という文字から花を摘み取ったことがあるか?4
きみはその名前を知ってはいるだろう、だがそれだけで、
きみはほんとうに「薔薇」を「知っている」、と断言できるのか?

名前の背後に何が隠されているのか探すといい。
月はいつでも空にある、水面に映るのはただの影に過ぎない。
きみはきみの心ひとつを信じて行け、
全ての偏見、全ての誤解、全ての常識からきみ自身を無垢にして。
きみの心の中には、全ての知識がすでに用意されている。
それを信じて進め、書物を捨てて、理解を捨てて、学んだ全てを捨てて。

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『悪きもの、この愛すべきもの』

この世に、絶対の悪などというものは存在しない。
悪とは相関的なものだ。この事実を認めなくてはならない。

永遠ならばいざ知らず、時の領域においては、
ある者の足であると同時に、またある者の足枷でないものなど
何ひとつ存在しない。

ある者にとっては足、ある者にとっては足枷。
ある者にとっては毒である何かが、
ある者には砂糖のように甘く、活力を与える。

蛇の毒は、蛇にとっては生命そのもの。
だが咬まれた者にとっては死を意味する。
海は、そこに棲む生き物達にとっては庭となるが、
陸に棲む生き物達にとっては閉ざされた迷宮となる。

ここにザイドという一人の男がいる。
ある者にとっては悪魔のようにも思える男だが、
同時にまたある者にとってはあたかも天使のよう。

もしも彼に、良い振る舞いを期待するのなら、
彼を愛する者の眼差しを以て接するといい。

あなた自身の眼を用いてはならない、
あなたにとって美しいものを見ようとしてはならない。
冒険者の眼は、探すものを見失ったりはしない。
探すなら、全てを見通す者の眼を以て探せ。

愛する者の眼を通して、全てを見よ。
愛する者の眼を通して、愛する者の顔を見よ。

愛する者はこうも言う、

「誰であれ、われを愛する者をわれは愛する
 われと共にある者とわれは共にある
 われは愛する者の眼となり、手となり、脈打つ心臓となる」

この世に、絶対の悪などというものは存在しない。

たとえどれほどのものであろうとも、全ては愛への道しるべ。
それを知れば、この世の全ては愛すべきものとなる。

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ルーミーによる七つのアドバイス

内なるものを、そのまま素直に表せる人間になるか、
  もしくは、見た目通りの中身を持った人間になりなさい。
(メヴラーナの7つの教えより、メヴラーナとは、“我が師”という意味)

人助けや奉仕の心は、惜しむことなく、流れる川のように・・

情け深さと優しさは、太陽のように・・

他人の落ち度や秘密には、夜のように・・

苛立ちや怒りには、死人のように・・

慎み深さは、大地のように・・・

寛大な心は、海のように・・

自分に忠実に生きるか、もしくは、見た目通りの人間になりなさい

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Syouji